後編 株式会社ワークマン「コロナ禍でも好調!ワークマンの成長を支えるデジタルシフト戦略」セミナーレポート
2020年11月13日に開催された「With コロナ時代における小売業の DX」 のセミナーレポートを前編後編に分けてお届けします。
- セミナー名 「With コロナ時代における小売業の DX」
- 主催者名 株式会社フジテックス
- 講師名
逸見光次郎氏、土屋哲雄氏 - 日時 令和 2 年 11 月 13 日 16 時~18 時
- 場所 ZOOM オンラインセミナー
- セミナー内容
第一部『いま求められる小売業のデジタルシフトとは?』逸見幸次郎氏
第二部『コロナ禍でも好調!ワークマンの成⾧を支えるデジタルシフト戦略』土屋哲雄氏 - セミナー背景
業界の垣根を超えた競争の激化、消費者ニーズの変化の加速、慢性的な人手不足など、コロナウイルス感染拡大によって、流通小売業界では様々な課題が顕在化し、DXの必要性が加速しました。
一方で、本当の意味でのDXを推進できている流通小売業は非常に少ないというのが現状です。今回は業界でもいち早くDXを推進され、成果を出されてきているお二方にDX推進を成功させるためのポイントや考え方についてご講演をいただきました。
目次
第二部 コロナ禍でも好調!ワークマンの成長を支えるデジタルシフト戦略
講師:土屋哲雄氏
株式会社ワークマン 専務取締役
1.2014年の「中長期業態変革ビジョン」
入社二年で中長期業態変革ビジョンとして、下記3点を掲げた。
期間は設けずに、必ず実行するということで「ビジョン」としている。
- 社員一人当たりの時価総額を上場小売り企業でNO.1に
- 新業態の開発
① 「客層拡大」で新業態へ向かう
② 「データ経営」で新業態を運営する - 5年で社員年収100万円のベースアップ
(※業績評価まで変える変革に対する社員へのRewardの先払い)
2.経営戦略と実現手段
「客層拡大」を6年間の目標と掲げた。
→製品を増やして顧客を増やすのではなく、作業客と一般客に販売するといった意味合い
達成手段①:データ経営
データに基づき、社員全員で考え改革する→持続的イノベーション
変化の大きい時代では、経営層は正しい判断を下すことが難しい。
現場で考えて持続的な改革を生み出していく方針。
達成手段②:しない経営
ブルーオーシャンだけを狙っていく経営方針。
今までの強みを生かし、勝てる分野だけで勝負をする。
(アパレル、高付加価値ビジネス、顧客管理、法人向けビジネスを「しない」)
方針:社員にストレスを与えない
仕事に期限を設けず、指示に対しても優先順位は社員に決めさせる。
3.企業文化から変える
DXはデジタルのDよりも、トランスフォーメーションのXの方が重要。
企業文化から変革していった。
4.ネット販売のClick&Collect化
目標:Amazonに将来も負けない
前提:中途半端では100%淘汰される
・店舗は試着や返品ができるといったネットにはない強みがある。
→Amazonへの対抗策として、1000店舗弱から2000店舗まで増やす方針。
1) 定価でAmazonに負けない
PB品を安く作り販売する。
そのためにデータを活用し、無駄な在庫を削減する。
2) 配送費でAmazonに負けない(Click&Collect化)
配送費で負けないために、将来的には宅配を行わず店舗受け取りに特化させる。
強みは実店舗を構えている、という点にあるため最大限に強みを活かす。
3) 販促費をかけない
SNSの評判だけで売り切る(アンバサダーマーケティング)
5.ターゲットとする市場
「ポジショニング」と「しないこと」を明確にすることで狙うべき市場が見える。
低価格な機能性ウェアという4000億の空白市場を見つけた。
6.ワークマンのマーケティング戦略
1) ダントツな製品しか作らない
60%は製品戦略。
ネットにも絶対に定価で負けない、競合が5年追い付けない製品のみを開発
2) ネットの評判だけで売り切る体制を確立
「濃いファン」に開発に参加してもらい、アンバサダーを「身内化」する。
無報酬の発信となり、これにより信頼感が増す。
3) 屋号を変え見せ方だけを変える
ワークマンプラスとワークマン女子では同じ製品を販売している。
コンセプトと見せ方を変えることで新たな客層の取り込みを行っている。
7.アンバサダーマーケティング
アンバサダーの提案を丸呑みして製品開発。
製品リリースはすべてアンバサダー経由で行い、ストーリーを作る。
アンバサダーとしてもワークマン製品を取り上げることで再生数が2倍以上となり、
WIN-WINの関係を築くことができている。
8.SNSとリアル店を繋げるConnected Store
ワークマン女子のコンセプト
話題性を重視して店を作り、来店者がSNSで発信して新たな来店者を獲得する。
9.データ経営の戦略
1)需要予測による善意型サプライチェーン
ベンダーは需要予測システム(AI)をベースに自ら判断して納品量を決定。
その際、注文書は出さず、全量を買い取りする方針を取っている。
需要予測のアルゴリズムは社員が考え、エクセルでシミュレーションを行う。
2) 人材教育
DXはデジタルツール(D)の導入よりも、それをどう組織で使いこなすかというXの部分が重要であるため、システムを導入する2年前からデータ活用研修をスタート。
コミュニケーション能力、データ活用力、デザイン力を評価指標としている。
分析チームを作り、毎月一回研修を実施。
3) データ活用度の検証
SVのデータ分析ソフトへのアクセス数を元に、上位者と下位者の業務を分析。
ツールを導入するだけでは成果は生まれないため、導入後も細かく検証が必要。
4) 分析チームの成果
■SV部:店舗機会ロス発見ファイルを作成
店舗未導入製品による機械ロスを大きい順に表示できるようになった。
■商品部①:サイズ分布ロス発見ファイルを作成
サイズ予測と実際の販売サイズとの乖離度を表示できるようになった。
■商品部②:カニバリ製品発見ツールを作成
カニバリ製品の一覧を表示できるようになった。
■採用部門:加盟店募集キャッチ最適化に成功
ABテストでチラシ効果を測定できるようになった。
【まとめ】
- DXはデジタルよりもトランスフォーメーションが重要。
- 経営変革は文化や風土から変える。
- しない経営→ポジショニングの確立
- データ経営→社内の人材育成が重要。
【しない経営】
- アパレル業への参入、海外出店はしない(国内に4000億以上の市場が存在するため)
- 値引き販売はしない(お客様に失礼であるため)
- 顧客管理はしない(手間がかかるため)
- 情報システムの作りこみはしない。(手間になるため)
- 厳格な期限管理はしない。(ストレスになるため)
- 社内行事はしない。
- 業界団体への参加はしない。
- 子会社の設立はしない。(連結決算となり経理の手間がかかるため)
- 元気のよい社内挨拶はしない。(無駄なため)
- 社内販売はしない。(伝票が必要なため)
- マイクロマネジメントはしない。