ニューノーマル時代のDX 第1回「 販促×CS」ともに顧客価値促進をすすめるために
日本オムニチャネル協会では、小売部会のもとに商品・販促・売場・CS・物流・管理の6つの分科会を設けて、それぞれに小売流通、SIer 、支援事業者が参加して日々議論を重ねています。今企画では、部分最適で考えると対立しがちな分科会のリーダーが、顧客起第1回 点で意見を述べ、真のオムニチャネルにいたる議論をします。第一回はともに顧客にアプローチする販促とCSです。
目次
販売の促進ではなく、顧客価値を促進する時代へ
登壇者:植野大輔 氏
DX JAPAN 代表 / 販促分科会リーダー
(元 株式会社ファミリーマート)
三菱商事(情報産業グループ)に入社、在籍中にローソンに出向
その後、ボストンコンサルティンググループ(BCG)を経て、ファミリーマート澤田社長に招聘されて、ファミリーマート改革推進室長、マーケティング本部長、デジタル戦略部長を歴任。直近では、デジタル統括責任者として全社デジタル戦略の策定、ファミペイの垂直立上げ等のデジタルトランスフォーメーション(DX)を全面的に指揮した
2020年3月DX JAPANを設立、日本大手企業のDXを支援中
一般社団法人オムニチャネル協会 アドバイザー
旧来型のアナログ販促の限界
デジタルが我々の生活に広く深く浸透する現在、ブランド(付随して広告宣伝)と販売促進の対立関係が課題化し始めています。
歴史的に、日本のメーカーは小売店頭にしっかりと棚を確保するために、販促支援金や協賛金という名目でメーカーが値引きやキャンペーンの販促原資を負担することが商慣習上、少なくありませんでした。メーカーの小売営業部隊はこの販促原資を弾力的に運用して、売上最大化を目指すわけです。
このメーカー小売営業部隊からすると、商品のブランド認知の拡大やブランドロイヤリティを高めるべく、クリエイティブに溢れるコミュニケーションを仕掛ける広告宣伝部隊は、泥臭く小売企業と商談をする自分達とは別世界に見え、「俺達が汗をかいて稼いだお金で、遊んでいる」「店頭に商品が並ばない限り、売上にならない。だったら、広告予算を販促予算に廻すべし」となりがちでした。一方、広告宣伝部隊からすると「せっかくブランドイメージを向上しているのに、値引きセールをするとは、何たる愚策」と、ブランドと販促の対立関係が出来上がっていました。これでも国内消費が成長している間は、売上成長がこの対立関係を覆い隠していましたが、しかし、国内消費は成熟した今、ブランド(広告宣伝)と販促の間の溝が、大きな課題として露呈し始めています。
デジタル時代の販促の潮流
さらに追い打ちをかけるのがスマートフォンの普及です。消費者は自分のスマフォから、様々な商品情報を取得し、さらに店頭まで行かずにネット通販で購入することもあります。また店頭で商品は確認するけれども購入はネット通販(ショールーミング)や、その逆で、人気ECサイトで情報を調べてお店に買いに行くケース(ウェブルーミング)もあります。
このようなデジタル時代の消費者トレンド、つまりはオムニチャネル時代が到来しつつある今、店頭値引きを中心とした販促も、CM好感度ランキング狙いの広告宣伝も、もはや抜本的な解決策にはなり得ません。
代わりに求められるのは、リアルとデジタルの中で、ブランド構築から販売促進、そして購買、さらなるお客様と関係づくりを総合的にデザインすることなのです。
オムニチャネル時代は“販促”と言う概念が進化する
オムニチャネル時代は、販売促進という概念も変わって来ます。販売促進とは、短期の売上向上とほぼ同義でしたが、店頭値引きでショットのブランドスイッチや追加購入を促す限り、いつまで経っても消耗戦です。そうではなく、一人のお客様の生涯顧客価値(LTV)を高めるべきと言う概念も注目されてきました。すると、販売促進と言う言葉自体が、もはや死語になって来ます。
現在、日本オムニチャネル協会販促分科会では販売促進を進化させて、仮置きですが「オムニチャネル時代の顧客価値促進」と言う概念やそのあるべき姿を探求しています。
CSは顧客体験の要、オムニチャネルハブになる
登壇者:渡部 弘毅 氏
ISラボ 代表 / CS分科会リーダー
(元 日本アイ・ビー・エム株式会社)
日本ユニシス,日本IBM、日本テレネットを経て、2012年にISラボ設立。20年以上一貫してCRM分野に関わり、法人営業担当、ITの商品企画、戦略および業務改革コンサルタント、アウトソース事業での経営企画、事業企画を経験。現在は顧客体験価値の向上を切り口に、ロイヤルティマネジメントのコンサルティング活動中。著書:「心理ロイヤルティマーケティング」翔泳社 2019年12月
コロナ禍で浮き彫りになった課題
ある小売企業が自社の会員に対してコロナ禍における意識を調査した結果、3つの重要な事実が分かりました。
一つ目は、利用頻度が高まったオンラインストアに対するストレスが多くなり、ロイヤルティに悪影響を及ぼしていること。二つ目が、オンラインへの購買シフトはあるものの、多くのお客様は相変わらず実店舗をメインにしたいと思っており、商品の実物を見たい、接客を受けたいというニーズがコロナ以前より増していること。三つ目は、クリック&コレクトやクリック&リザーブといったオンラインと店舗の連携への期待値が高まっていること。
この結果から、コロナ禍においては、オンラインへの極端なシフトではなく、実店舗が新たな価値を提供するオムニチャネルサービスの推進が重要であることが言えます。
オムニチャネルの実現はDXの実現そのもの
マーケティングの神様である、フィリップ・コトラーは自身の書籍「コトラーのリテール4.0」(2020年4月)で、「リテールとは、商品をバックに入れさせることではない。顧客体験が全面的に最優先事項になった。」と主張し、オムニチャネル体験の重要性を説いています。
一方、日本の小売業のオムニチャネル検討の多くは商品主体の考えで、ゴールは商品をレジに通すまでが焦点になっています。
本来の日本人のDNAに基づいた小売業とは、お客様主体で、購買体験の充実、さらには販売した商品でお客様の生活を豊かにすることが目的のはずです。そうした小売りの原点に戻る機会がコロナ禍で再到来したのかもしれません。
そして、あるべきオムニチャネルの実現にはDXが欠かせません。商品主体のビジネスモデルからお客様主体のモデルに変革するのです。デジタル技術を使って、常にお客様とつながりお客様の行動や感情を把握しながらお客様に寄り添って購買体験や生活を豊かにするための小売りとして生まれ変わる必要があります。
CSオムニチャネルハブ構想で店舗価値を高める
あるべきオムニチャネルサービスを構築するにあたって、今後益々重要な役割になるのが、カスタマーサービス(CS)部門です。
今までCS部門は、商品販売後の問合せや苦情対応の部署としてどちらかというとコスト部門的扱いでした。しかし、お客様の生活を豊かにするという本来の目的を達成するためには極めて重要な部門になります。
また、コンタクトセンターは、非対面でありながらヒューマンタッチな対応が可能な組織であり、コロナ禍におけるオンラインと実店舗の中間的のハブ的チャネルとして店舗価値向上に貢献できます。
日本オムニチャネル協会CS分科会ではこの考えを「CSオムニチャネルハブ構想」として具現化し、啓蒙しています。